日時2022年 5月 7日(土)13:30〜16:00
会場 :和光学園(技術室)


 春の研究会 報告
    内容    技術教育・家庭科教育の基礎・基本 を考える


  新型コロナウィルスによる感染が収束に向かう兆しがなかなか見られなく、そのために産教連の研究活動も停滞を余儀なくされていたが、少しずつ活動が再開されつつある。その活動の一つとしてこの研究会が計画された。当初は3月下旬実施で企画されたのだが、コロナ禍で延期され、この日の実施となった。会場校で研究会を行うのはおよそ2年ぶりである。当日はオンライン形式も併用して研究会を進めたが、2名の方がオンラインで参加された。 
   この日のテーマは、木材加工の学習における材料としての木材をどう教えるかの検討である。具体的には、昨年(2021年)の夏に出版された『技術・家庭科ものづくり大全』の該当部分の記述も参考にしながら、加工学習としての基礎・基本をどう捉えるかを、丸太材を加工して作品づくりに生かす一連の過程について、作品づくりを進めながら検討してみた。問題提起・材料準備と製作指導を研究・サークル部の野本勇氏に、作業に必要な工具・機械類の準備を会場校の亀山俊平氏にそれぞれお願いした。
 野本氏は、前述の書籍の記述を一部引用しながら、以下のように問題提起された。「木材は加工しやすい材料であり、ノコギリ、カンナなどの道具の使用ができるので、魅力ある教材である。……木材加工は、もの作りの導入に適した材料である。……」(P.143)。また、「技術・家庭科では、製作をして作品ができることも他教科にない特徴である。……」(P.153)。
 今回は材料として丸太材(直径150mm以上で、長さ200mm以上の間伐材)を用いて、材料に関する科学的な知識を学びながら、実生活で使える作品づくりにねらいを定めた。丸太材を利用することで学べることは次のような点である。
1.乾燥による樹木のひび割れの観察から、ひび割れ方向が放射状になることが確認できる。
2.丸太材を輪切りにした断面の観察から、年輪の形(成長のしかた)や木材特有の香り(防虫効果など)が確認できる。
3.丸太材を縦に割ったものの観察から、柾目材・板目材の違いが確認できる。
4.丸太材を小作品作りの材料に加工することで、材料の強度や節による欠損を考える必要性のあることがわかる。
 丸太材の加工と観察については、次のような点が学べることになる。
@丸太材を輪切りにする。このとき、ノコギリの縦びき・横びきの違いがわかる。
A丸太材をノコギリやたがねを使って縦に割る。このとき、木質による割れ方の違いがわかる。また、針葉樹材は縦に割れやすい(このことから、建築材として利用しやすい)こともわかる。
B板材に加工したとき、乾燥による材料の割れやそり、木目の現れ方の違いがわかる。
 野本氏は、「丸太材を利用して木材の特徴や性質を学ばせようとしたとき、ただ単に観察させて終わりにするのではなく、学習に使った材料を何かの小作品づくりに生かせないかと考えたのが、今回提案する教材につながった」と述べられ、さらに「以前考案した卓上型テープカッターは実用性があり、多くの先生方が教材として実践されているようだ。卓上型はおもりを入れる必要があったのに対し、今回提示するハンディタイプは、手に持って使う関係上、おもりは不要で、小型化が可能になった。実際に製作してみて、問題点等を検討してほしい」と話された。
 テープカッターの設計の手順は前述の書籍にも記載(P.194)されているが、注意すべき点がいくつかある。使用するテープの大きさを頭に入れ、ケース部分との摩擦を考えて、数mm程度の余裕を持たせておくのを忘れないようにする。第三角法による製作図を用いたいところだが、等角図による図だけでもよいのではないか。この教材は強度的に考慮する点はないが、見た目の安定感を持たせるなどの工夫は必要である。接合部分に強度を求める箇所はないので、接着剤による接合だけでもよいと考えるが、他の一般的な接合方法を体験しておく必要もあるのではないか。
野本氏による問題提起がなされた後、参加者は、用意された丸太材を加工して作るハンディ型テープカッターの製作に挑戦し、1時間余りでほぼ完成させた。野本氏が提示された図面を掲げておく。側面の材料は丸太材を割ったものを利用してよい。むしろ、そのほうが味のある作品ができあがる。しかし、底面と前面の材料は、構造上、正確さを要求されるので、別に準備した幅30mmの角材(市販のカッター刃が幅30mmなので)を使うようにする。Aの寸法は、今回は丸太材を割ったときの厚さで決めたが、材料の強さや安定感などから決めればよい。最低でも10mm以上はほしい。
 野本氏の話では、何回か試作を繰り返すなかで、図面の寸法に落ち着いたとのことである。また、接合部分さえ正確に加工できていれば問題ないので、そのことを頭に入れて作業するようにする。参加者の製作したテープカッターを次に掲げておく。

 参加者の作業がひととおり終わったところで、問題提起を受けての討議に移った。野本氏から、「丸太材を利用して、木材の特徴や性質を学ぶことを主眼にしたが、利用した丸太材を加工して実用性のある作品を考えてみるのもよいかと思い、ハンディタイプのものとして教材化してみた。教師が製作すれば2時間もあれば完成するが、生徒に製作させるには4〜5時間程度を見込む必要があるだろう」との発言があった後、討議が本格化した。「丸太材を使った学習を行う場合、材料をノコギリで切った際に、切断面に柾目や板目が現れるような切り方をさせることが大事だと思う。教科書の記述を自分の目で確かめさせることが重要で、丸太材を使うことのよさがそこにあるはず」「最近の間伐材は節がけっこうあるし、丸太材の直径が10〜15cmもあると、万力にはさんで切るのも容易ではない。そんなこんなを考慮すると、丸太材を利用した作品づくりは、実用性のあるものを製作させるのには向かないのではないか」「丸太材を利用した学習では、学習のねらいをどこにおくかが重要だろう。今回は間伐材を利用しているが、見た目がきれいで見栄えのある作品に仕上げさせようとするなら、材料として丸太材ではなく、集成材を使わせたほうが完成度があがるはず」「今回紹介された丸太材を利用したテープカッターでは、接合部さえ正確に加工されていれば、強度的に問題はない。製作前 に何(どこ)を評価するのかをあらかじめ提示しておいてから、加工に取りかからせるのがよいと思う」などの意見が出された。
 会場校の亀山俊平氏は、「教科書には、木材の組織や各種の木質材料について、写真で紹介されているが、材料見本あるいは丸太材の実物を用意して、これらを見せながら説明すれば、説得力があるうえ、生徒たちの記憶にも残るのではないか」と、実物を示しながら報告されていたのが印象的であった。

   


研究会に対する問い合わせ先

野本 勇