日時2019年 6月 1日(土)13:00〜17:00
会場 :棚倉町立図書館


内容 夏の大会へ向けて授業実践を報告しあい改善点を検討する


 今回は、今年(2019年)の全国大会(第68次技術教育・家庭科教育全国研究大会)のプレ集会を兼ね、いつも使っている都内の学校ではなく、はるばる福島県東白川郡棚倉町まで足を伸ばし、町立の立派な施設で実施した。参加者は久々に10名を超え、活気に満ちた討議が繰り広げられた。
 さて、この日は、4人が自分の授業実践をそれぞれ報告し、それに対する意見交換をするという形で進められた。また、今夏の大会の基調提案の研究会開催時点でのものが提示され、その中の学習評価について、文部科学省から先頃出された通達の内容を中心に報告がなされた。それに対して、観点別学習状況の評価が変更となった根拠は何か、“知識・技能”の評価を具体的にどのように進めるか、評定については外国ではどのように扱われているかなどに関しての質疑応答や関連しての意見交換がなされた。

@ エネルギー変換の学習で電力事情を考える取り組み   亀山俊平(東京)
 2011年3月の東日本大震災以降、“原発”に対する見方に大きな変化が現れてきていることから、エネルギー変換の学習では、エネルギーに対する正しい知識を授け、理解力を育むことが大切だと考える。これまで教材として延長コードを取り上げ、電気エネルギーの特徴をいろいろの角度から学ばせてきたが、法令の改正に伴い、教材としての扱いが困難となった。現在は発電・送電を具体的にどう教えるかということに重点を移し、はじめてキット教材を扱ってみている。このキット教材を使いながら、教科書以外に新聞記事や動画映像も併用し、再生可能エネルギーやスマートグリッドなどについての理解を深めるようにしている。発電・送電の理解には変圧器(トランス)のしくみの学習の必要性を感じている。
 亀山先生は、「今回、キット教材に変えたのは、最近、生徒の製作能力が落ちてきたと感じているのが最大の理由である。また、教科書は使えないなどと酷評する先生もいるようだが、使い方次第で使える部分がかなりあることがわかった。『教科書のこの部分は使える』『こういう教科書の使い方もできる』などということをもっと出し合うとよい」とも話された。
 その後の討議では、「勤務校で使われている教科書1種類しか持っていない先生もいるそうだが、それではだめで、発行されている教科書はすべて手元に用意し、見比べながら授業に活用していく必要があるのではないか。それが教科書をよくしていくことにもつながっている」、「人類の歴史を振り返ってみると、火の使用が人間の生活に大きな変革をもたらした。これがエネルギー変換の原点だと思うが、いかがか」、「発電・送電の学習は重要だが、製作教材と遊離してしまわないように気をつける必要があるだろう」などの意見が出された。

A Arduinoを使った3色LEDライトの製作            後藤直(新潟)
 技術・家庭科の授業で必須の指導内容の一つ、プログラミングによる計測・制御の学習では、使う教材の値段が授業時数の割りに高いのが難点で、生徒が自前で購入するのに躊躇する額である。そこで、教材を備品として購入し、生徒に使わせている学校が多いようである。学習する側の生徒から見たとき、製作したものを家庭に持ち帰れることが学びの深化につながるとともに、学習意欲の向上にも結びついている。そこで、ハードウェアを手作りしたうえでプログラムを組み込み、自分独自の仕様のものを作り上げることに学習の本当のおもしろさがあるという考えに立ち、この教材を考案してみた。
 後藤先生は、「プログラムを工夫し、完成したものをさらによいものに改良していくということを考えたとき、この教材は満足のいくものだと思っている。構成部品は(写真2)ワンボードマイコンArduino、3色LEDと抵抗器を配線した銅箔基板、電源用の電池で、マイコンと基板をピンコードで接続している。生徒が自作した基板部分をマイコンにつなげるのがハードウェアの製作にあたり、パソコンからマイコンにプログラムを転送するのがソフトウェアの学習にあたる。教材費は1000円以下で済む」とつけ加えられた。
 その後の討議では、「製作するのが部品点数の少ない基板ゆえ、LEDがただ単に3色に光るだけでなく、明るく(暗く)なったら点灯するというように、CdSをつけ加えた仕様にしてみるのもおもしろいのではないか」、「単に3色のうちのどれか1色に光らせるだけでなく、3色のうちのどれか2色を出力させるプログラムをあらかじめ組み込んでおき、出力の状態を生徒に選ばせてどうなるかを見てもおもしろいと思う。また、3色全部を出力させれば白色に光るはずだから、そのようにプログラムさせることもできるのではないか」などのアイデアが出された。

B 発電効率のよい風車開発のポイントをさぐる授業      渡邊晋一郎(福島)
 「エネルギー変換の技術」の単元では、教卓の前で演示実験をやってみせるなど、教師主体の授業をこれまで進めてきたが、学習指導要領の改訂にあわせて授業改善を求められるようになったため、生徒が主体的に取り組む授業をめざし、教材を工夫してみた。具体的には、風力発電で発電効 率を上げるための風車の形状を設計・開発させることにしてみた。風車の羽根に扇風機の風をあてて発電させ、その電気で光らせたLEDの明るさのちがいで発電量を感覚的にとらえさせ、その後に電圧計で最高電圧を測定し、数値的に発電効率をとらえさせた。
 渡邊先生は、「はじめは風車の羽根の素材として紙コップを使ってみたが、その後に厚紙に変えた」と話されていた。「発電効率のよい風車について追究するのではなく、発電効率のよい風車開発のポイントをさぐらせているのはよいと思う」、「発電効率を比べさせるのに電圧を調べさせているが、電力を測定させてみてもよかったのではないか」などという意見がその後の討議で出された。

C 教師の熱意で生み出す数々の教材・教具が日々の授業を支える 後藤昌弘(福島)
 日頃の授業で活用している教材・教具を3つ紹介された。1つ目は、親子木工体験教室(授業参観 のために来校した保護者にも技術・家庭科の授業に参加してもらった)での檜材を使っての箸作りである。失敗なく作るため、箸作り用ジグ(写真5)を使い、かんながけと紙やすりで仕上げる。2つ目 は、MDF材利用のCDラック(写真6)である。MDF材は中密度繊維板というファイバーボードの一種で、安価で入手しやすい。接合には釘は使わず、木工用接着剤だけで済ます。3つ目は、写真7のような教具で、東京サークルの定例研究会で以前、目にしたものを1枚のボードにまとめたものである。  後藤先生は、「MDF材はかんながけも楽にできるので、木材加工の導入教材の材料として使ってみ るとよい。また、学校でよく使われている印刷機のマスターロール紙の芯を再利用(写真6の円筒形のもの)してもおもしろいと思う。柿渋などを塗ると、竹のような雰囲気が出て、味のある作品ができる」とも話されていた。
 その後の討議では、釘による接合について、ひとしきり議論が続いた。整理してみると、「木工用接着剤を使ってMDF材の接合をする場合、釘を仮止め用として使うのならばよいが、釘を併用するのは、板の割れを招くおそれがあるので、たとえ釘打ちの練習としても、やめたほうがよい。別の場面で釘打ちの指導をするのが望ましい」のようなことだった。





   


研究会に対する問い合わせ先

野本 勇