日時2019年 1月 26日(土)13:00〜16:00
会場 :目黒中央中学校  


内容  工具の使い方のコツは指導経験者に問うのが確実


 1月の定例研究会は大寒を過ぎた第四土曜日の午後に実施した。今回の会場を使用するのは昨年(2018年)11月に続いて2回目である。研究会当日は北風が吹きすさぶ寒い日だったが、地下1階にある研究会場の技術室は暖房が効いていて、快適であった。
 さて、技術・家庭科を教えている教員の中には、実習の指導に不安を抱えながらも、授業実践に取り組んでいる者も多いのではないかと思われる。そのような教員の参考にもなるように、この日は、木材加工の実習指導のしかたについて、経験豊富な年配の参加者が、不安を抱えている教員に対して、指導のコツを伝授する形で研究会を進めた。具体的には、のこぎりびきの指導法を中心に行った。
 現在行っている授業内容を会場校の近藤修氏に紹介してもらった後、参加者が互いに自分ののこぎりびき指導法を紹介し、指導の際のポイントを確認しながら進めていった。
 なお、本年(2019年)1月21日に行われた中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会において、「児童生徒の学習評価の在り方について」と題する報告が取りまとめられて報道発表がなされたとの話がこの日の研究会の最後にあり、教育課程部会に提出された資料のうち、「任意の意見募集に関する主な意見」という名称の資料のコピーが、当日の定例研参加者にも配付されたことを付記しておく。

@ 材加工における効果的なのこぎりびきの指導のしかたを模索する   近藤修
 木材加工の学習でもワークシートを用意し、学習したことをそれに記入させながら授業を進めている。両刃のこぎり(実習では替え刃式のものを使用)の特徴について説明した後、のこぎりびきの動画を視聴させ、気づいた点をまとめさせる。補足説明を加えたうえで実習に移っているが、けがき線に沿って真っ直ぐに切れていない、切断面が直角になっていないなどの不備が見つかる例が多く、指導が浸透していないことを感じる。きれいに切れる効果的なのこぎりびきの指導法を会得したい。
 近藤氏の実践報告を聞いた参加者の一人から、早速、指導方法についての疑問点が出された。「プロと素人の二人がのこぎりびきをしている様子を見比べ、そのちがいをワークシートにまとめさせるとのことだが、漫然と動画を見せるだけでは、ちがいをまとめられない生徒がいるのではないか。どこに注目して見るのかという視聴の際のポイントをできるだけ具体的に提示したうえで動画を見せることで、かなりまとめやすくなるはず」というものである。
 のこぎりびきが上手にできない生徒の様子を観察していて気づくのは、「材料の固定がうまくいかずに、切断中に材料が動いていてもそのまま作業を続けている。切り始めののこぎりのあて方や動かし方が不適切で、ひき溝が幾筋もできてしまっている。切断作業中の姿勢、特に視線の向け方が悪く、結果的にけがき線からそれて切れてしまう。ひきこみ角度(のこぎりをひく角度)が概して 大きい場合が多く、そのためか刃が材料に食い込んでしまい、のこぎりが動かなくなることがよくある。のこぎりの刃全体を使ってのこぎりびきをしていないためか、せわしなくのこぎりを動かしていて、『先生、のこぎりびきは疲れる!』との言葉を発し、しまいには曲がって切れてしまっている」との、ある参加者の発言も踏まえながら、のこぎりびきの指導法の講習に入った。
 工具あるいは機械を使って材料を加工する場合、材料(今回は木材)を固定して工具(今回はのこぎり)を動かし、作業することが多い。このとき、「正確に加工するには材料が動かないようにしっかり固定することが大切」であることをきちんと認識させる必要がある。材料の固定のしかたは種々あるが、教科書にも紹介されている、技術室内の腰掛けを横倒しにし、切断材を乗せて片足で押さ えて切る方法は、生徒のような初心者には勧められない。ここは、材料を木工万力あるいはクランプでしっかり固定させる方法をとりたい。ただ、材料を木工万力に固定する場合、材料の向きに注意が必要で、教科書に紹介されているような、木口あるいは木端を上に向けて固定する方法(写真1)は推奨しない。それは、写真1のような材料の固定のしかただと、のこぎりのひきこみ角度の関係でしゃがんだ姿勢で作業することになり、椅子に座る生活に慣れた現代の生徒の実情にそぐわないからである。
 そこで、講習で提示されたお勧めの材料固定法が写真2のような固定のしかたである。これは、材料の幅や長さに関係なく、材料を床面に対して水平になるように固定する方法である。材料が大きな板材の場合には、適当な長さの角材の上に板材を乗せて、両者をクランプで固定し、角材のほうを万力に固定するやり方(写真3)である。これならば、材料の大きさや形に左右されずに、正確 なのこぎりびきが可能となる。また、材料の固定のしかた以外に、切り始め(写真4)や切断中(写真5)ののこぎりの動かし方のコツや注意点等についても、参加者同士で確認しあった。
 のこぎりびきの指導法についての講習がひととおり終わったところで、木製パズルの製作についての説明が野本勇氏からあった。野本氏は、「木材加工の作品製作で、予定した作業が早く終わってしまった生徒向けに与える課題の一つとしてこのパズル製作を活用していたが、のこぎりびきの練習用課題としても十分利用できる」と前置きして、以下のような説明をされた。
 断面が正方形状の長い角材を用意し、のこぎりびきによって同じ大きさの立方体形状のブロック27個を作る。このブロックを木工用接着剤で貼り合わせて7種類のパーツを作成する。これら7種類のパーツをうまく組み合わせ、写真6のような平面に仕立てたり、写真7のような立体に仕立てたりする。切断に必要なけがき線が角材に正確にひけて、そのけがき線に沿って正確にのこぎりびきができないと、うまくブロックができあがらないから、本製作の前の練習教材としても十分に活用できる。
 その後、参加者たちは、完成品見本として用意された木製パズルのパーツの組立を試みたり(写真8)、説明のあったのこぎりびきのコツを体感したりしていた。研究会の最後に締めくくりの討議を 行った。この討議で話題となった点を中心に、おもな意見をあげておく。両刃のこぎりの縦びき・横びきに関して、「両刃のこぎりには異なる形の刃(写真9)が両側についていて、縦びき(繊維方向に切る)には縦びき刃を、横びきには横びき刃をそれぞれ使えば、切り口がきれいになると教えたとしても、定期試験で『板をこのように切るにはどちらの刃を使うか』と出題して、“縦びき刃・横びき刃”という用語で答えさせるという安易な出題のしかたをしてはだめだと考える。縦びき・横びきないしは板材における縦・横という用語の意味をきちんと教えてあったうえでの出題ならば納得がいく。また、教科書の実習例の材料表に“厚さ×幅×長さ”という表記があるが、“幅”や“長さ”という用語の意味もきちんと教えておいたほうがよいのではないか」という意見に対し、「確かに、縦びき・横びきというときの縦・横と、算数・数学をはじめとして、日常生活で使っている縦・横とでは、意味合いがちがうようだ。のこぎりの刃は、昔は横びき用の刃しかなく、かなり時代が下ってから縦びき用の刃が現れている。こうしたのこぎりの刃の形の変遷と絡めて縦びき刃・横びき刃の役割等を説明する手もある」との意見があった。また、けがきあるいはけがき線に関して、「正確にのこぎりびきするには、けがき線の上を切るのではなく、けがき線に沿って、けがき線が残るように切る必要がある。そのためには、正確にけがき線が引かれていることが大切で、さしがねと直角定規を併用し、木材の4面に正確にけがきをすることが重要である」との意見に賛同する声が多かった。

 


研究会に対する問い合わせ先

野本 勇