日時2018年 3月10日(土)14:00〜16:30
会場 和光学園(家庭科室)


内容  実習を取り入れた授業の大切さを内外に広く知らしめよう


     3月はどの学校でも卒業式が行われ、その準備であわただしい時期であるとともに、年度末を控え、事務処理等で忙しい時期でもある。そのような関係からか、今回の定例研究会の参加者は少なめであった。
 さて、この日は、まず、自家製の小麦粉を使ってカントリークッキーを作ってみた。材料の準備と実習の指導は野本惠美子氏(和光学園)がされた。研究会の後半は、できあがったクッキーを試食 しながら、新学習指導要領に基づいた授業はどのようなものになるか、議論を進めた。

1) 自家製小麦粉を用いてカントリークッキーを作る        野本惠美子
 自宅の菜園で栽培した小麦を小型の石臼で挽いて粉にした全粒粉(写真1の左端)を使ってクッキーを作る。作り方は次のようである。
@ ボウルに無塩バターを入れて柔らかくし、砂糖と塩を加え、白っぽくなるまで混ぜる。
A 卵をといて、数回に分けて入れる。その都度よく混ぜる(写真2)。
B 小麦粉(薄力粉)とベーキングパウダーを入れ、ゴムべらで混ぜる(写真3)。
C チョコレートチップを加える(写真4)。
D オーブン皿にオーブンシートを敷き、Cの材料をスプーンですくい取ってのせる。(写真5)
E あらかじめ温めておいた170℃のオーブンで20分間焼く(写真6)。
 実習に要する時間は片づけも含めて50分ほどなので、授業としては1単位時間で計画可能である。「自分で育てた小麦を粉に挽いて作った材料を使って作ったクッキーだから、おいしさもひとしお  だ」とか、「小麦は粉にすることで、粒食ではなく粉食がよいということがよくわかる」などという感想が試食した参加者から聞かれた。一方で、「オーブンの設定温度や焼き時間はどのようにして決めたのだろうか」とか、「小学校では、家庭科で米飯について学び、社会科で稲作について学習する。それなのに、小麦から作ったうどんやパンが給食で出されていながら、自分たちの食べているものについての学習をどの程度しているのだろうか」などというつぶやきが参加者の間であったが、これらの点についての突っ込んだ討議は、時間の関係もあってやらなかった。

2) 新学習指導要領の実施で授業に変化が起こるか
        −移行期間中の授業について考える−      金子政彦
 本年(2018年)4月より新学習指導要領の移行期間に入る。技術・家庭科の授業はすべて改訂された学習指導要領の内容で行うことも可能だが、もう1年間は現行の学習指導要領に基づいて授業を進め、新学習指導要領の内容の学習にあてるのがよい。というのも、中学校では、新学習指導要領の全面実施は2021年4月からとなっているからである。
 新学習指導要領の内容を理解するキーワードの1つが「見方・考え方」である。小・中学校の学習指導要領の理科では、「科学的な見方や考え方を養う」という目標が20年以上にわたって掲げられていた。現行の学習指導要領の技術・家庭科技術分野の目標には「技術的な見方・考え方を身につけさせる」という文言こそないが、「技術と社会や環境とのかかわりについて理解を深め、技術を適切に評価し活用する能力と態度を育てる」という字句がそれにあたると考えられる。現行の中学校学習指導要領には、国語・社会・数学・美術などの教科にも“見方・考え方”なる文言が登場している。新学習指導要領の元となった中教審の審議内容の記述に「『見方・考え方』を支えているのは、各教科等の学習において身に付けた資質・能力の三つの柱である」などが見られる。結論的に、“学習の結果として身につく(学習によって身につけさせる)”という現行の学習指導要領のとらえ方に対して、“学習の過程で働かせて質の高い学びにつなげる”という新学習指導要領のとらえ方の違いがある。つまり、ある程度、“見方・考え方”はすでに身についているという前提にたっての授業を考える必要があるということになる。この点については首を傾げざるを得ない。
 新学習指導要領の内容を読み解いていくと、これまでやってきたような実習や製作をほとんどやらない指導計画も可能になりそうである。今後、新学習指導要領に沿った授業を続けていくと、10年先あるいは20年先には実習指導も満足にできない教員ばかりになってしまうおそれがある。だからこそ、次の学習指導要領改訂を見据え、産教連がこれまで大切にしてきた、頭と手を使い、ものを作りながら必要なことを身につけさせるという実践を率先して続けていくことが重要となってくる。と同時に、そのための条件整備を内外に強く訴えていくことも必要である。
 先般、文部科学省が公表した小・中学校新学習指導要領Q&Aを抜粋した資料の提示もなされたので、これらをもとに、技術・家庭科の授業をこれからどのようにしていくのがよいか、そのために産教連は何をなすべきか、定例研資料を基に討議を進めた。
 「審議のまとめには『教科ならではの“見方・考え方”を働かせて思考・判断・表現することが求められる』などというようなことが記されているが、見方・考え方は学校教育で身につけさせるのではなく、生活の中で身につけさせると受け取った。これはおかしいのではないか」、「教科ならではの見方・考え方というが、『理科の見方・考え方』、『技術の見方・考え方』で、『理科的』あるいは『技術的』ではない。そうかと思うと、『地理的な見方・考え方』、『歴史的な見方・考え方』、『音楽的な見方・考え方』などとなっていて、統一性がない」など、新学習指導要領で規定された「見方・考え方」に対する多くの疑問点がどの参加者からも出された。
 また、「新学習指導要領に目を通してみたが、文章表記がわかりにくく、表現の不明瞭さがあちらこちらで目立つ。それに対して、現行の学習指導要領の文言は単純明快で、わかりやすいのが際だっている」という発言に代表されるように、新学習指導要領の内容を正確に理解するのに時間がかかるのも事実である。新学習指導要領の内容検討を別の機会に実施することを確認して研究会を閉じた  

 


研究会に対する問い合わせ先

野本 勇