日時2017年6月10日(土)13:30〜16:00
会場 中大付属中(工作室)


内容 エネルギー変換の学習で設計と製作をどう結びつけるか


 6月に入り、首都圏はすでに梅雨入りはしているものの、雨の日が少ない。研究会当日も、日差しが強くて真夏のような陽気であったが、研究会場内はエアコンが効いていて、快適であった。
 さて、この日の研究会のテーマは、電気エネルギーを利用した製作品を作る場合、設計と製作をうまく結びつけるにはどのようにすればよいかという点である。3名の先生の実践報告を受け たが、今夏の全国大会(第66次技術教育・家庭科教育研究大会)でも取り上げることになっているソーラーランタンの試作を中心に据え、研究会を進めた。また、研究会の冒頭、今年(2017年)3月31日に告示された新学習指導要領に対する移行措置案が文部科学省から提示されたので、その概略が報告された。
 新学習指導要領に対する移行措置案が本年5月26日に発表され、研究会開催日現在、パブリックコメントを実施中である。その結果を受け、本年7月上旬には決定した移行措置が告示されるはずである。本年度は改訂された学習指導要領の周知・徹底の期間になっているので、今年の夏休みには全国各地でその内容に関する伝達講習会が行われるものと思われる。移行措置期間は、小学校が平成30年度と平成31年度の2年間、中学校が平成30年度から平成32年度までの3年間である。新学I習指導要領は、小学校が平成32年度から全面実施、中学校が平成33年度から全面実施、高等学校が平成34年度から年次進行で実施という改訂スケジュールになっている。小学校では、外国語活動あるいは外国語科が導入されるため、移行期間中は3年から6年までの総授業時数が15時間増やされ、これを外国語活動の時間にあてるよう求めている。また、小学校家庭科および中学校技術・家庭科については、すべての内容を新学習指導要領によることができるとしている。

@Liter of Lightを製作する        後藤直(新潟県三条市立大崎中学校)
 エネルギー変換の学習では、日常生活に深いかかわりのあるエネルギーを取り扱いながらも、手応えを感じるような授業がなかなかできずにいた。授業時数の関係から、回路学習に十分な時間をかけることができないため、中途半端な学習になっていたことがその原因である。電気のしくみや生かせる手頃な製作教材がなかったことも事実である。そんなこんなで、教材業者推奨のキット教材を取り扱ってきたが、完成度は高いものの、それまでに学習したこととその後の製作とがうまく回路について学習しても、それを合致しないという難点があった。そんなとき、ペットボトルでアフリカの街路を照らすプロジェクトの“Liter of Light”を知った。このプロジェクトは、ペット ボトルに入れた水に太陽光を当てると、暗闇を照らす光源として使えることを利用し、電気が通っていない地域に電気を提供しようというものである。夜間にも使えるよう、ソーラーライトと組み合わせた改良型が使えるようになってから、この活動が世界的に広がって行ったとのことである。 このソーラーライトにヒントを得て、常夜灯の回路をモジュール化したLEDコントロールICのCL0116を使い、構成部品数を少なくして、比較的安価で(1000円程度)製作できるようにした。このソーラーライトならば、手作りでしかも完成度の高いものができ、初期の目的が達成できると考えた。このソーラーライトは、太陽電池で発電した電気をニカド電池に充電し、太陽が沈んで暗くなったら、充電した電気でLEDを光らせるというものである。
 参加者は、後藤氏からの説明後すぐにソーラーライトの製作(試作)に取りかかった。製作時間の短縮のため、ペットボトルに取りつける塩ビパイプやアクリルパイプはすでに加工済み(穴あけや接合等)だった。したがって、作業としては使用部品(ICその他の電子部品や太陽電池等)のユニバーサル基板へのハンダづけが中心となった。参加者は作業開始から1時間ほどで作品を完成させていた。
 作業中から早くも意見交換が始まった。その後の討議も含めて、出された意見のおもだったものを記しておく。「初心者にとって、基板へのハンダづけがむずかしい。その理由の一つは、ランド同士の間隔がいわゆるICピッチで狭いので、ハンダづけの際に隣のランドとくっついてしまうためである。もう一つは、ランドに差し込んだICのピン(足)を他の電子部品と同じように曲げてしまうと、ピンを折ることがよくあるからである」、「基板の裏側でハンダづけするので、裏返したとき に左右(または上下)が逆になり、部品の配置のイメージがつかみにくい。指導のときに工夫が必要になる」、「作業をスムーズに進めるためには、ハンダづけを失敗した基板を何種類か用意しておき、その原因を考えさせたうえで作業に取りかからせるのもよいのではないか」、「この製作品の動作は基板への電子部品の実装のしかたの適否に左右されるから、まちがえやすい箇所の指摘や作業手順のきめ細かな説明などをていねいにやる必要がある」、「ソーラーライトの製作にかかわる学習だけでエネルギー変換の学習は終わりとしてしまっては、学習が不十分になる。屋内配線のしくみや電気の安全な使い方など、家庭で使われている交流の電気に関する学習もやっておく必要がある」。
 「ここで出された貴重な意見を参考に、手直しの必要なところは修正したうえで今夏の大会に臨む」と後藤氏は最後に述べていた。

A電気学習でねらうもの        禰覇陽子(中央大学附属中学・高等学校)
 2年生で取り上げるエネルギー変換の学習では、回路学習に重点を置いている。それは、回路がわかれば電気の流れがわかり、スイッチなどが用いられた回路のしくみが理解でき、導通や絶縁についても自分で判断が可能になり、回路の点検や事故防止の学習に結びつくと考えるからである。取り扱う教材は、回路図と実体図が容易に結びつくような、単純な回路のものが望ましい。したがって、基板に部品をハンダづけしたものが使われている教材は、電気の流れが見えづらく、不向きということになる。そこで、家庭用の100V電源を使用する教材として、安全面にも配慮しつつ、ハンダごてとテーブルタップの製作を取り上げることにした。理科の電気分野での学習済みの内容を活用しつつ、より一般的な材料を使った“ものづくり”をやりながら、電気についての理解を深められるのが理想であるが、既習の学習事項を応用できるほど定着はしていない。そこで、電気学習における到達目標を具体的に3点ほど定め、既習事項の確認をしながら授業を進めている。
 禰覇氏は、実際の授業の一例を紹介され、次のようにまとめられた。「『一円硬貨は電気を通すか?』と問うと、『通さない』と答える生徒が圧倒的に多い。一円硬貨がアルミニウムでできてい ることは多くの生徒が知っているのにである。そこで、手作りの導通チェッカーを使い、実験してみせる。この導通チェッカーは、コードの両端に電源プラグを取りつけ、コードの途中に電球ソケットをつないだもので、ソケットに40W〜60Wの電球をはめたうえで、一方の電源プラグはコンセントにつなぎ、もう一方の電源プラグには一端をむき出しにしたコードをつないで、テスト棒代わりとして使う。今の子どもは実体験が希薄なためか、この実験例のように、知識として知ってはいても、実生活の中で使える知識とはなっていない」
 なお、禰覇氏の実践の詳細は月刊誌『理科教室』(本の泉社)の2017年5月号に掲載されているので、参照されたい。

Bエネルギー変換でも設計学習の設定を 新村彰英(東京都中野区立第七中学校)
 「材料と加工に関する技術」の学習では、設計から製作へというステップを踏む。つまり、ものづくりの手順に沿って授業を展開しているわけである。「生物育成に関する技術」の学習では、目的とする作物の栽培計画を立てて栽培を進める。「情報に関する技術」の学習では、計測・制御の学習ならば、情報処理の手順を考えてプログラムを作成したうえでアクチュエータの製作、デジタル作品作りならば、コンテを作成したうえでデータの編集となる。いずれも、設計から製作へという手順である。ところが、「エネルギー変換に関する技術」の学習では、電気エネルギーを利用した製作品の製作はやっても、回路設計はやっていない。いや、正確に言うと、やれない状況が多いのではないかと思う。その理由は、使用部品の材料が、木材や金属などといった単一な素材ではなく、電気的に多種多様な特性をもっており、これらを組み合わせて所期の目的を達成させるようになっているため、電気に関する基礎知識や組み合わせた場合の回路にのはたらきについての知識を持ち合わせていないと、設計は無理だからである。そこで、製作品に関する学習とは切り離し、3時間程度の短時間でよいので、教科書に載っている程度の部品を使って、回路設計をやってみてはどうか。たとえば、「ブザーが鳴り、電球も同時に点灯する回路を考え、回路図で示す」というような課題をいくつか用意して考えさせ、その答えの回路を実際に作って見せるのである。
 新村氏の提案に対しては、「同様の課題をいくつか提示して生徒に考えさせ、部品を生徒に渡して実際に回路を作らせる」という授業実践を試みた事例が『技術教室』誌(現在は休刊)にも掲載されているという指摘があった。
 なお、新村氏は、「のこぎりびき評価装置」なるものを考案・紹介されたことがあったが、今度は、げんのうによる釘打ちの指導に使える「ハンマ打ち評価装置」なるものを考案したとのことで、研究会場内に持ち込んで紹介していた。これについては、いずれ取り上げてもよいかと思う。

 

 
 


研究会に対する問い合わせ先

野本 勇