日時2017年3月11日(土)14:00〜16:00
会場 エデュカス東京(全国教育文化会館)


内容 こうなった理由を考えつつ読み解く新学習指導要領案


 3月の定例研究会が行われたこの日は、ちょうど6年前、東日本大震災が発生し、その地震による大津波によって東京電力福島第一原発事故が起きた日である。今も避難生活を余儀なくされている人々に思いを馳せながら、研究会を進めた。
 この日は、本年(2017年)2月14日に発表された新学習指導要領案について、その内容を読み解きつつ検討してみた。この改訂案については、前回の研究会でも少し検討はしたが、改めてさらに詳しく検討することにした。

  新学習指導要領案を批判的に読み解く                金子政彦
 小学校において、家庭科以外に技術教育・家庭科教育にかかわりの深い教科としては、算数科、理科、生活科、図画工作科があげられる。このうち、理科と生活科では、現行のものに「ものづくり、飼育、栽培を行うように」という規定が設けられているが、新でも同様の規定がそのまま受け継がれている。一方、現行では、算数科の4年および5年の図形に関する内容のところに「見取図や展開図をかく」という規定があったが、新では、4年の図形に関する内容で「見取図や展開図を知る」というように、その扱いが軽くなっている。そして、図画工作科では、指導計画の作成と内容の取扱いについての複数の配慮事項の一つに、現行、新ともにまったく同じ文言の項目があり(使用する材料や用具についての規定)、新では、その一部が削除されているところがある。それが『低学年(1,2年):児童がこれらに十分に慣れることができるようにする。中学年(3,4年):児童がこれらを適切に扱うことができるようにする。高学年(5,6年):児童が表現方法に応じてこれらを活用できるようにする』という一文である。
 文部科学省は、中教審の審議中から『学習内容の削減は行わない』という方針を示していたが、今回の小学校家庭科、技術・家庭科の改訂案を見る限り、この内容では授業時間は到底足りず、子どもたちは消化不良を起こすのではないか。また、ものづくりの元ともなる製作図について、小学校段階で、立体を平面上に表す学習が現在より軽く扱われるようになり、製図の指導が大変になることだろう。技術・家庭科で教える内容を考えるとき、中学校だけを見ていたのではだめで、小学校から高等学校まで眺め渡す必要があり、場合によっては小学校入学前の教育内容まで見る必要がある。
 技術・家庭科と小学校家庭科について、現行のものと新とを比較した結果についても報告があったが、その一部を以下に示す討議内容のところで紹介する。
 小学校と中学校との学習内容のつながりに関連しての意見では、「『現行で、用具あるいは工具に十分慣れるまで、適切に使えるまで、活用できるまで指導すべしとしていたものが、新では、そこまでする必要はなく、単に使わせるだけで十分だと読み取れる。これは小学校段階での技術教育の後退を意味する』という報告がなされたが、同感で、ただでさえ生活体験の希薄な子どもたちを前にして、同じことを指導するのに今まで以上に時間がかかることになる」、「今回、第三角法による正投影図の指導が復活したが、小学校の算数科での学習と考えあわせると、製図学習で子どもにどのような認識を持たせようとしているのか、今ひとつ不明である」というのがあった。
 小学校家庭科ならびに技術・家庭科家庭分野に関して、「『新では、小学校、中学校ともに衣食住に関する内容をひとまとめにした。また、和服について触れる』などの報告があったが、小学校の食に関する指導の内容の取扱いのところで、『第4学年までの食に関する学習との関連を図ること』とのただし書きがある。報告ではこの点については触れていなかったが、食の学習はどの教科で扱っているのか」との質問が参加者のひとりから出され、「現行の総則に『体育科の時間(3,4年の体育に具体的な記述がある)はもとより、家庭科、特別活動などにおいて……』との記述があるから、これがよりどころになるのではないか」との回答が引き出された。
 討議の最後に教科目標について検討した。以下はそのとき出されたおもな意見である。「新では、小学校の家庭科、技術・家庭科家庭分野のどちらも、まず、『課題をもって、……考え、工夫する活動を通して、次の事項を身に付けることができるよう指導する』のように、その単元での学習方法を提示した後、その単元(領域)の学習内容を列記している。一方、技術・家庭科技術分野では、『○○について調べる活動などを通して、○○によって解決する活動を通して、○○の在り方を考える活動を通して、という、各単元に共通した3通りの方法で、次の事項を身に付けることができるよう指導する』という表記のしかたになっているが、技術分野と家庭分野で表記のしかたを統一できなかったものか」、「技術・家庭科の目標の提示のしかただが、現行のものが教科全体の目標と技術分野・家庭分野の分野別の目標に分けて、単純明快かつ簡潔に提示しているのに対して、新では、教科目標と分野別目標を分けて提示している点は現行のものと同じだが、それぞれがさらに3項目ずつに分けて提示されている。似たような文言が繰り返し使われ、くどいという感じがする。
 一方、小学校の家庭科は、現行のものは教科目標と学年目標に分けた位置に提示してあるが、新では、教科目標としてまとめて提示してあり、すっきりした感じになった」、「技術・家庭科の新の教科目標に『生活の営みに係る見方・考え方や技術の見方・考え方を働かせ、生活や技術に関する実践的・体験的な活動を通して、……』とあるが、“生活の営みに係る見方・考え方”とか“技術の見方・考え方”などというものは、この教科の学習をした結果として身につくもので、身につく前から働かせて学習できるものではないはず。この文言は削ったほうがすっきりする」。
 本年3月末までには新学習指導要領が告示されるはずなので、それを受けて、再度、検討してみる必要があることを確認して研究会を閉じた。


 




研究会に対する問い合わせ先

野本 勇