日時2017年 2月 18日(土)14:00〜16:30
会場 東京学芸大附属世田谷中学校

 
 手づくりの簡易製図板を活用した製図学習の可能性を探る



  今回の研究会も、前回同様、第三土曜日の午後に実施した。首都圏では、ちょうどこの時期に多くの公私立高校で入試が行われ、受験生の対応にあたる教員もいて、定例研の参加者も少なめであった。   さて、この日は、製作図を正確にかかせるのに欠かせない製図板とT 定規を自作させて個人持ちにし、それを使って製図学習を進めているという実践を紹介し、あわせて同じものを参加者にも実際に製作してもらい、教材としての活用のしかたや製図学習のあり方について検討してみた。実践報告ならびに問題提起をされたのは 後藤昌弘氏(福島県東白川郡鮫川村立鮫川中学校)である。
@手作りT定規と製図板から始める製図学習   後藤昌弘
  技術教育において、立体を平面上にかき表すことは必要不可欠な学習内容だと考えているが、学習指導要領の改訂とともに技術・家庭科の授業時数の削減が行われ、製図学習の時間の確保が困難になってきている。加えて、以前は独立した領域であった製図が、今では加工学習の中で扱うようになっている。このようなことから、製図板やT 定規が備品として存在しないか、あっても破損していたりする学校が多いのが現実である。そこで、製図板とT 定規を自作させ、それを使って製図学習を展開することにした。また、製作を通じて、木材の基本的な性質や工具の基礎的な使い方も身につけさせることができると考えた。
    実践してみてわかったことは「2時間ほどで製作でき、完成品は家へ持ち帰って使うこともできる。木材の組織、さしがね・のこぎりなどの工具の使い方の基本的なことが指導できる。製図を製作における重要なものと考えるようになった」、今後の課題としては「自作した製図板・T 定規の活用によってどのような効果があるか、継続的に調べる必要がある。また、中学校の教育課程全体の中で製図学習をどう位置づけ、どのように展開していくかを明確にする」。
実践報告の中で、後藤氏は「製図板・T 定規の手作りを検討していたとき、ホームセンターおよび100円ショップで竹製の平棒ならびに長さ30cmの竹製ものさしが、たまたま目に止まったのが教材化のきっかけとなった」と述べていた。
  製作に必要な材料は、竹材(厚さ5mm、幅23mm、長さ600mm のものを長さが350mm と120mm の2本に切断して使用)、シナ合板(厚さ5.5mm、縦225mm、横300mm のものを2枚)、ヒノキ材(6mm 角、長さ900mm の角材を長さが305mm のもの2本と長さが210mm のもの1本に切断して使用)で、あわせて500円ほどである。
    自作の製図板とT定規を使って製図する作り方はいたって簡単で、竹材を所定の長さに切断し、木工用接着剤をつけて接合すれば、T 定規ができあがる。このとき、正確に直角に接合しないと意味がないので、シナ合板の角を利用して接合させるのがポイントである。製図板のほうは、ヒノキの角材を所定の長さに切り分け、木工用接着剤をつけて1枚のシナ合板の縁に沿って貼りつける。 その後、貼りつけたヒノキの角材に木工用接着剤をつけ、もう1枚のシナ合板を先ほどのシナ合板に重ねるような形でヒノキの角材に接合すれば、完成である。
  この手作り製図板はほぼA4 判サイズなので、家T定規の製作庭の本棚にも収まり、邪魔にならないうえ、A4 判大の用紙が収納できてしまう。むろん、いっしょに作ったT 定規も収納可能という優れものである。
 参加者の作業が終わったところで討議に移ったが、研究会実施日の数日前に公表された新学習指導要領案も参考にしながら進めることとした。以下におもだった意見を掲げておく。 「片方の手に鉛筆を持ち、もう片方の手でT 定規と三角定規を同時におさえ、直線を引くのは案外むずかしい。こうした技能は昔より落ちてきているのではないか」、「中学校では、技術教育は技術・家庭科が担うことははっきりしている。では、小学校で技術製図板の製作教育を担うのはどの教科か。図画工作科と言いたいところだが、少しちがうのではないか。技術・家庭科では図面どおりに正確に作るという緻密さを要求されるが、図画工作科の目標は『……感性を働かせながら、つくりだす喜びを味わう……』などとなっていて、正確に作ることはねらいの中にない。『木切れ、板材、釘、針金、小刀、のこぎり、金づち、糸のこぎりなどの材料や工具を繰完成した製図板とT定規り返し取り上げるように』とのただし書きはあるものの、技能の習熟をらったものではない」、。 「中学校の技術・家庭科で扱っている製図やものづくりに関しては、小学校では算数科・理科・図画工作科が関わっていると思うが、小学校での学習の上に立っての中学校での学習というように、学習の積み上げは考えられていない。では、図面どおりに正確に作るという学習を学校教育の中で研究会討議風景行う場合、どの段階から始めるか。また、どの教科がそれを担うのか、きちんと議論しておく必要がある」、「中学校におけるものづくりあるいは製図に関する教育を考えるとき、小学校の教育とのつながりを見るだけでは不十分で、小学校入学前の教育から高校の教育までのつながりを見ることが大事で、さらに、現行の学習指導要領の内容だけでなく、新学習指導要領の中味までも見比べることも必要である」。
  討議の中では、地方の教員の実情(特に、複数校兼務発令を受けた教員の現状)や大学にえける教員養成の将来の見通しなども話題に上った。さらに、新学習指導要領案についても、現行のものとの相違点を中心に、意見交換を行った。この新学習指導要領案については、日を改めてじっくりと検討する必要があると感じている。 
  


 
  

  


 
野本勇 isa05nomoto@snow.plala.or.jp