日時2015年 4月 18日(土)14:00〜17:00
会場 東京学芸大附属世田谷中学校
< 子どもを惹きつける教材で授業を展開してみよう>
子どもも教師も期待に胸を膨らませる新年度がスタートした。その新学期が始まって10日あまり経った土曜日の午後に研究会が行われたのであるが、参加者は思ったより少なめであった。研究会場の中学校は、2013年5月以来、およそ2年ぶりの使用である。
研究会冒頭の近況報告のなかで、非常勤講師をめぐる学校の実情が紹介され、待遇面でもいろいろ問題のあることがはっきりしてきた。こうした教育条件に絡む問題も研究会後半に取り上げた。
さて、今回のテーマは、参加者各自が立てた今年度(平成27年度)の年間指導計画をどう具体化して授業を進めていくかを、使用する教材の選択の視点から検討してみた。
また、前回に引き続いて、中教審で審議中の学習指導要領改訂をめぐる問題についても検討してみた。
@ 手回し発電機を利用した教材を見直す 亀山俊平(和光学園)
電気学習では、ここ数年、久富電機産業(株)製の手回し発電機を利用して、LED、基板、スイッチなどの部品をタッパーウェアに組み込んだ教材を扱ってきた。この教材は携帯電話充電用のUSB端子もつけた優れものである。2011年3月に発生した東日本大震災では、この教材が非常に役立ったとの声が製作した生徒たちから寄せられた。子どもにも保護者にも好評のこの教材も、そろそろ再検討の時期に来ているのではないか。
亀山氏は、この教材を再検討する理由として、「限られた授業時間数のなかできちんと指導するのが難しくなってきている。また、急速な社会状況の変化に伴って、大人同様、子どももケータイからスマホへの利用へと変わってきている。ところが、規格の違いの関係から、従来のUSB端子がスマホの充電に対応しておらず、充電に関しての利用価値がなくなってきており、対応するものに変更するのも困難である」点をあげた。亀山氏は、現在、大容量コンデンサ、3端子レギュレーター、USB端子など10点ほどの部品を個別に準備し、それらをケース加工したタッパーウェア内に組み込んで製作している。各種の電子部品は穴あき基板にハンダづけによって取りつけるが、その際の作業ミスを防ぐため、作業済みの基板両面の写真を両面印刷したプリントを準備するという配慮もしている。
その後の討議のなかで出された意見のおもだったものをあげておく。「手回し発電機を使った教材として充電式ラジオがあるが、今やスマホの充電もできるような機能がついていないと、教材としての魅力がない時代になっているのは事実だ」、「世の中の技術革新の流れに沿い、教材にも変化が起きている。たとえば、テーブルタップがその一つである。パイロットランプや中間スイッチのついたものが廃れ、15A仕様のものに変わってきている」、「最近のテーブルタップの市販品は一体成形タイプのものが増えてきていることは確かだが、さし込みプラグの部分が最も壊れやすい。そのとき、この部分の修理が直せるよう、必要な知識を教科書に載せておくことも大事だと思う」、「今、中教審で新学習指導要領についての議論がなされているが、これからの教材開発について、教材業者に働きかけてみるのも一つの方法かもしれない。また、何をどこまで教えるのかをきちんと議論しておくことが大事になってくる」。
なお、会場校の諏佐誠氏より3年後期の教材としてゲーム機の基板づくりの紹介があったことを付記しておく。
A 学習指導要領改訂へ向けて産教連が当面取り組むべき課題について考える 金子政彦(常任委員)
学習指導要領の改訂についての諮問がなされてから5カ月ほど経った。この間、昨年(2014年)12月、今年1月および3月の定例研究会で学習指導要領の改訂問題を扱ってきた。その間に中教審の審議はどこまで進んだのかというと、現在、中教審初等中等教育分科会内に設置された「教育課程部会教育課程企画特別部会」においての審議が中心となっている。先日公表された、今年1月29日の会議の議事録によれば、ある委員の質問に対して、文部科学省の担当者が「今夏ぐらいまでに基本的な方向性を集中的に審議し、その後は教育課程部会の下に各教科等別の専門部会を設置し、この特別部会でまとめた論点整理や大きな方向性を基に、各教科別の議論を深めるというような流れを予定している」と答えている。ということから考え、小中学校の家庭科あるいは技術・家庭科の時間数や内容についての審議は、今秋から「教育課程部会 家庭、技術・家庭、情報専門部会」において本格的になされるとみてよいのではないか。そこで、産教連として次のようなことを試みてはどうか。
1. 新学習指導要領についての産教連としての主張あるいは考え方を今夏の全国大会で 内外にアピールする。方法としては、基調提案に盛り込む、声明を出すなどが考え られる。また、内容としては、「小学校家庭科の授業時間をこれ以上減らさない」、 「中学校3年の技術・家庭科の授業時間を1,2年と同じ週2時間にする」などが考えられる。
2. 中教審委員に技術教育・家庭科教育の現状を訴える。
「小学校の家庭科の授業時間は、平成元年3月告示の学習指導要領では、5年、6年ともに70時間であった。それが、総合的な学習の時間が設けられた平成10年12月告示の学習指導要領では、総授業時数が70時間減るとともに、5年が60時間に、6年が55時間に減った。そして、外国語活動が設けられた平成20年3月告示の現行学習指導要領では、総授業時数が35時間増えたが、家庭科の授業時間数に変化はなかった。次の学習指導要領では、5年および6年に外国語科を設けることが決まっているが、総授業時数を変えないとすれば、外国語科の授業時数を生み出すためにどこかの教科の授業時数を削る必要が生じる。そのときに減らす教科として家庭科をその対象としてはならない」という補足が提案者よりなされた。
その後の討議で出された意見のおもだったものをあげておく。「日本では、昔から職人と呼ばれた技術者が優れたワザを若い人たちに伝えてきた。ものづくりではこうしたワザを大切にしたい。そうしたものづくりのよさをどうやって一般の人に伝えていくか、本格的に議論する必要があるだろう」、「最近、ものづくりの授業で創意工夫ということをよく耳にするが、図面どおりに正確に製作するということも大事にしなければらないはず」、「今の若い教員のなかには旋盤を扱った経験のないものもかなりいると思う。そのような教員にものづくりのよさをわかってもらうのは厳しい気がする」。
ここ最近、技術教育・家庭科教育でどのようなことを大切にするか、何をどこまで学ばせるかといった点に関しての議論がおろそかになっているのではないか。今夏の全国大会でも、こうしたことをきちんと討議する必要があるのではないかとの反省も出されたことをつけ加えておく。
永澤悟
野本勇 isa05nomoto@snow.plala.or.jp