日時2014年 10月 4日(土)14:00〜17:00
会場 品川区立荏原第六中学校 (家庭科室)

<育てて食べることを実践した生物育成の取り組み>

  10月の定例研究会の会場は真新しい校舎の4階にある調理室で、およそ1年ぶりの使用である。この日のテーマは“育てて食べる”で、「生物育成」と「食物」をどう結びつけて授業を進めるかを、実際に豆腐づくりをしながら検討してみた。材料の大豆は会場校(東京都品川区立荏原第六中学校)の野本勇氏が生物育成の授業で栽培・収穫したものを使い、豆腐づくりに必要なものの準備と実習指導は会場校の鈴木智恵氏と野本恵美子氏(東京都町田市立町田第一中学校)にお願いした。なお、野本勇氏の呼びかけに応じて、会場校の生徒2人が実習に参加していた。
 豆腐づくりについては2011年4月にも定例研究会で取り上げており、「技術教室」誌(現在は休刊、No.708,2011年7月号)を参照されたい。

@“育てて食べる”を大豆の栽培で実践する        野本勇

 生物育成の授業では、小松菜の栽培とあわせて大豆の栽培にも取り組んでみた。大豆は5月に種まきをし、7月に枝豆として一部を収穫した。その後、8月に大豆として収穫した。収穫した大豆の使途として考えられるのは、豆腐以外に味噌・納豆・きな粉などだが、失敗も少なくて手軽に取り組めるものとしてはやはり豆腐づくりだろう。収穫した大豆の中に、見た目が悪くて商品価値のないものがあったとしても、豆腐に加工してしまえば、その違いはわからなくなってしまうという利点もある。
 大豆を水に浸しておくなど、前日から準備をしておけば、1単位時間の中でなんとか豆腐ができあがるし、作り方の違いによる木綿と絹ごしの相違点も明らかになり、手頃な教材となり得る。
 まず、写真で当日の豆腐づくりを振り返ってみる。
  1. 用意した大豆を洗い、水に一昼夜浸しておく。
  2. 水を吸った大豆をミキサーですりつぶす。できあがったものが生呉(なまご)である。
  3. 大鍋に湧かした湯に生呉を入れ、木ベラでかき混ぜながら強火で煮る。沸騰したら火を弱め、さらに数分煮る。
  4. 煮上がった呉をさらし布製の袋に入れて搾る。搾り汁が豆乳で、こし布の中味がおからである。
  5. 豆乳を80℃まで加熱し、にがりを静かに回し入れる。
  6. しばらくすると、豆乳が分離してくる。
  7. 型箱にさらし布を敷き、分離した豆乳を玉杓子ですくい入れ、上蓋を乗せて重しをする。
  8. 型箱から取り出し、水にさらしてできあがりである。
 参加者は、作業をやりながら互いに情報交換し合い、豆腐に関する自分の知識を確かめ合っていた。「木綿豆腐は木綿の布で豆乳をこしたもので、絹豆腐は絹の布で豆乳をこしたものと思っていたんだが、ちがうんだね」と、それまでの知識の誤りに気づいた参加者もいた。
 参加者たちは、できあがった豆腐を試食し、市販の豆腐との違いを実感として受けとめていた。
また、豆腐づくりをすると大量のおからが出る。このおからの活用法としておからクッキーがよく取り上げられるが、今回は蒸しケーキを作ることにした。おから150gに卵2個、ココア50g、ベーキングパウダー小さじ1を加えてよく混ぜ、混ぜ合わせたものを炊飯器の内釜に入れて、そのまま炊飯する。これも試食してみた。残ったおからは、参加者や実習に参加した生徒が持ち帰った。
 実習の片づけを済ませた後、討議に移った。出された意見のうち、おもなものを記しておく。
「国産大豆と輸入大豆のように、豆の種類を変えて作ってみるなどして、できあがった豆腐の味の違いを確かめるのもよいのではないか。あるいは、自分で栽培・収穫した大豆と市販 の大豆のように、使った材料の違いによって、できあがった豆腐がどのように違うのか、比べてみるのもおもしろい」、「米の本当の味を知るには、炊いたご飯をそれだけそのまま食べてみるのがよい。それと同様に、収穫したものに何も手を加えずにそのまま食べてみるのが、自分で栽培したことのよさがわかるはず」、「『生物育成』と『食物』を結びつけた取り組みというと、技術科の教員が生物育成で栽培・収穫したものを、家庭科の教員の協力の下、家庭科の時間を使って家庭科の教員が調理するという事例が多い。作物の栽培からその収穫物の加工までを一区切りの学習と考え、収穫した作物の調理までを技術科教員が担うような取り組みを考えてもよいのではないか。つまり、食物の学習の一部を技術科教員が担当してしまうのである」、「基礎・基本が大事だとよく言われるが、現在の子どもの状況を考えたとき、何をもって基礎・基本とするのか」との発言から、調理実習全体を通じての基礎・基本に話が及んだ。「授業時間数の関係もあるのだろうが、次のような事例をよく見かける。ルーを作ることをせずに固形のルーで済ませる。出汁をとらずに市販のできあいのものを使って済ませる。包丁を使わずにピーラー(皮むき器)を使ってジャガイモの皮をむかせる。基礎・基本を考えたとき、これらの事例をよしとするのかどうか」との問題提起があったが、時間の関係もあり、
これ以上深められなかった。
 「最近、学校給食などで食物アレルギーのことが話題に上っている。大豆・小麦・牛乳など、対象となる食物もいろいろである。調理実習でアレルギーの現れることのある食材を扱う場合、細心の注意を払う必要があることを忘れてはならない」という指摘があったことを最後につけ加えておきたい。


   研究会に対する問い合わせ先
    永澤 悟(八王子学園) 
    野本 勇(荏原六中)