日時2013年6月 8日(土)14:00〜16:00
会場 大東文化大学法務研究科(法科大学院))
(技術室)

内容 技術教育・家庭科教育の現状を変えるための手がかりを探る


 研究会開催目現在、関東地方以百が梅雨に入っているものの、首都圈は梅雨とは思われないほど好天が続いている。 さて、この日は、今夏の全国大会のプレ集会を兼ねて実施した。研究会では、3本のレポートをもとに討議を進めた。レポート発表者は、野本勇氏(東京都品川区立荏原第六中学校)、永渾悟氏(ハ王子学園ハ王子中学校)、金子政彦(元公立中学校)の3人である。当目、検討した内容については、おそらく、夏の大会でも議論が沸騰するものと思われる。 
@ テーブルタップの製作でエネルギー変換(電気エネルギーの利用)を学ぷ  野本勇  教材としてのテーブルタップには根強い人気があるようで、多くの学校でテーブルタップの製作が行われている。エネルギー変換の単元では、テーブルクップ作りを取りあげているが、いきなり製作学習に入るのではなく、プリントを使った学習を済ませてから製作に進んでいる。プリント学習で取りあげているのは「電気エネルギーの利用」である。発電についての記述は教科書にあるが、送電や変電に関する記述が少ない。また、教科書には、電気機器の安全な利用の項で、配線器具の定格・テーブルタップの取り扱い・プラグの修理が取りあげられているので、製作学習の際に活用している。   「発電・送電について学習したうえで、テーブルタップを作りながら、電気機器の安全な使い方や配線器具の定格といったことを学ばせている点はよい。発電所から家庭に至る送配電設備の最終段階としての引込線から、電気の敢り出し口としてのコンセントに至るまでの道すじにあたる屋内配線をしっかり学ばせなくては、片手落ちではないか」という参加者からの指摘に対して、「学習指導要領の文言には屋内配線に関する記述は一切ないが、『漏電・感電等についても扱うものとする』という注釈がつけられている。 これを理解させるためには、屋内配線のしくみについても触れざるを得ないはず」との解説が司会者よりなされ、参加者は納得していた。その他、「限られた授業時間のなかで学習を進めなければならないとき、1つの教材でいろいろなことが学べるテーブルタップは優れた教材と言える」、「テーブルクップはキット教材化され、指導する教師にも根強い人気があり、学習する子どもにも評判がよいが、教材業者のほうはPL法の関係からこの教材を敬遠する傾向が見られる」などと、テーブルタップに関しての意見が出された。  「授業のなかで子どもに何かを作らせる場合、テーブルタップに限らず、製作する教材の価値や有用性を子どもにきちんと理解させておくことは大切なのではないか」、 「電気学習では、理科での学習との関連を常に考えておかねばならない。製作学習を先行させ、理論的な学習は作品完成後に回すなど、子どもの理解を第一に考えて指導計圃を立てたい」などの貴重な意見も出された。
 

Aパソコン利用で何でも表示できるLED                  永渾悟  コンピュータによる制御は複雑なプログラムによって動作している。一見すると不可思議にも思える、このコンピューク制御の原理をできるだけ簡単な装置で見せたいという思いに駆られ、7セグメントLED ・ マイコン・タクトスイッチを組み合わせた回路を作ってみた。今回使用したLEDは、8つのLEDを特定の組み合わせで光らせることで、数字やキャラクタを表現する出力装置で、点灯パターンをマイコンで操作すると、LEDの表示を自由自在に変化させることができる。 この教材は今夏の全国大会の匠塾(実技コーナー)で取りあげる予定になっている。 そのような関係からか、この教材を授業で扱うときの留意事項が参加者からいくつか出された。「大きめの基板と巨大7セグメントLEDを用いて作った、この教材を班に1台ずつ準備し、それを使って動作を確認・理解させてから、製作に移るようにするのがよいのでは」、「ユニバーサル基板を使っているが、これでは部品のハンダづけが大変だと思う。この教材用の プリント基板を特注するなどして、生徒の負担軽減と作業ミスを減らす工夫をしたらよい」「班単位で実験によって動作のしかたを理解するには、ブレッドボードを使ってみるのがよい。これだとハンダづけがいらないので、学習のねらいがすっきりしてくると思うが」などなど。 「この制御の学習を一歩進めて、100Vを電源とする電気機器の動作を制御してみるのもおもしろい。ただ、それを扱う場合、制御する電流の大きさなども考慮に入れなければならないことは当然だが」などという意見をはじめとして、子どもの生活と結びっけた学習を展開することの必要性を指摘する発言がいくつかあった。 B技術・家庭科の過去と現在一教員生活を振り返って思うこと一    金子政彦  40年間の教員生活の間に、学習指導要領の改訂が4回行われた。技術・家庭科は、改訂のたびに学習内容が大きく変わり、授業時間数も減らされてきた。 40年前には技術分野の学習が3年間で315時間できたのに、現在は3年間でわずか87.5時間分しか、技術分野の学習は確保できない。こんなに変化の大きい教科が他にあるだろうか。学習指導要領の目標に「実 践的・体験的な学習活動を通して」とあるように、技術・家庭科の学習では実習を重視したい。また、学習指導要領の文言の中に「○○ができること」という表記が見られる。したがって、単に体験をさせるだけでは不+分で、技能に習熟するだけの時間を確保する必要がある。 40年前の学習指導要領の記述を見ると、「のこぎりびきができること」とか「かんな削りができること」とか言うように細かな規定がなされている。現行のものにはそこまでの規定はない。そこで、学習にあてられる時間を勘案し、指導する教師側で扱う工具類を選定し、授業にあたればよいのではないか。それにしても、学習指導要領に盛り込まれた学習事項を子どもにきちんと身につけさせるには、現在の授業時間ではとうてい足りない。 その後の討議では、提案者の問題提起に同感の主旨の発言が相次いだ。「現行の学習指導要領では、広く浅く学習させるしかない。“体験する”ことと“できる”こととは明らかにちがう。実践のなかでそのちがいを際だたせる必要がある。栽培学習などは、作物を変えて、2学年にわたって繰り返し学習させたほうがよい。そうすれば本当にわかるし、できるようになる。たいした経験もしていないなかで栽培計圃を立てるなどということは無理な話だ」 「現在行われている観点別評価には問題点が多い。評価作業に時間をとられ、教材研究に時間を割けない現状がある。運動として取り組みを広げたい」、「現行の教科書は資料集に近く、あまり役立たない。昔の教科書のほうがよくわかるように記述されている」などなど。 研究会の最後に、新村彰英氏(東京都板橋区立上板橋第二中学校)が持参した制御の教材を紹介された。ただ、時間の関係で、どのように制御し、どのような動作をするのかを見せるだけにとどまった。教材の詳細については次回の研究会で取りあげることにした。


野本 勇 isa05nomoto@snow.plala.or.jp
金子 政彦 mmkaneko@yk.rim.or.jp