日時2012年6月16日(土)13:30〜17:00
会場 大東文化大学法務研究科(法科大学院)
JR信濃町駅前

内容 プレ集会「これからの技術教育・家庭科教育を考える」

今回は、今夏の産教連主催の全国大会のプレ集会を兼ね、会場をいつもとは別の場所に移して実施した。当日は、朝からの雨模様にもかかわらず、熱のこもった討議が繰り広げられた。

@今後の技術教育をどう組み立てるか永澤 (八王子学園)
中高一貫教育実施校として今年開校したばかりで、技術科の授業を一から始めたところである。技術を生活の中で活用するための能力と態度を育てるため、“基礎的・基本的な”知識と技術を学習させることがこの教科のねらいと意義だと考える。
子どもの現状を見たとき、知識や経験がゼロに等しい子どもに対して、ものづくりあるいは技術とは何かということを一から教えることが必要だと思う。教科指導に当てられる時間数が限られている学校教育のなかで、ハイレベルの技術の産物の製品と同程度のものを製作したり、それに手を加えたりなどということは困難である。となれば、最先端技術の学習に時間を割くより、問題解決能力を鍛えていくような授業展開を心がけるべきではないか。
「限られた授業時間数のなかで、あれもこれもと取りあげるのではなく、教材や授業に対する指導者としてのこだわりを持ち、取り扱う内容に軽重をつけたい。そして、授業の中で本物の体験をしくむべきだ」「最低限ここまでは身につけてほしいということがらを指導者側から具体的に提示し、あとは子どもの発想を生かしながら自由に取り組ませるなかで実践力が高まっていく。『こんなこと学んで何になるのか?』との子どもからの問いかけにきちんと答えられる謙虚さも必要」「やる気のない子どもをその気にさせる指導上のテクニックも身につけていくと、授業に幅が出る」などといった意見が出され、「今後の教科カリキュラム作成の参考にさせていただく」と永澤氏は述べていた。

A技術教育・家庭科教育の現状と課題 後藤 (新潟県三条市)
未来の日本を背負って立つ人材の育成にやりがいを持ち、強い責任感のもと、日々の教育活動の忙しさにもめげず、職責遂行のために絶えず研鑽を積んでいるのが、現代の教員の姿である。ところが、こうした努力がむなしく感じられることが最近多くなっている。大阪市教育行政基本条例の制定や卒業式・入学式での日の丸・君が代への起立・斉唱の強制の問題などがそれである。昨年の東日本大震災以来、原発問題や電力不足に関しての国民的議論が巻き起こっているが、この問題を技術教育・家庭科教育に携わる私たちがどうとらえるか、真剣に考えたい。今年4月から新しい教科書が使われ始めた。教科書の内容や体裁などについての問題点を洗い出し、積極的に出版社に伝えていくことは、たとえどんなに忙しくてもやらねばならない。今夏の全国大会では、こうしたことを本音で語り合い、教科のなかで子どもに真につけさせたい力を探っていきたい。

今回、後藤氏が提示された内容は、今年8月に東京で行われる産教連主催の全国大会の基調提案の素案ともなるべきものであった。「最近、日本国政府が白熱電球の生産中止を業界に要請したが、考え方の趣旨がちがうのではないか。今回の電力不足問題を契機に、生活スタイルの見直しを含めて、意識改革を強力に推し進めていくべきだろう」「学習指導要領には何を教えるかについての大まかなことが記され、学習指導要領解説にはさらに事細かに指導内容などが記されている。検定教科書はこれらをもとに作成されている。これだけの内容をきちんと教えるのには現在の時間数ではとうてい足りないことを教科調査官にしっかりと伝えていくべきだ」その後の討議のなかで出されたこれらの意見は、基調提案作成の際に参考としたいと後藤氏は述べていた。

B原発と技術教育・家庭科教育 沼口 (大東文化大学) 昨年の東日本大震災以来、学校教育の場で原子力発電をどう教えるか、議論が沸騰している。学習指導要領や検定教科書では、理科や技術・家庭科で取り上げるようになってはいるものの、十分とはいえない。少ないながらも、さまざまの教科で扱った実践報告がなされている。最近、大澤真幸氏の著書「夢より深い覚醒へ―3.11後の哲学」を読み、考えさせられた。大澤氏は、「脱原発を目標とすべき」と言い切り、その結論に至る過程を明解に論じていた。技術・家庭科の役割、そして、この教科の指導に携わる教師の責任を、この著書から改めて痛感した。
沼口氏は、産教連通信第183号(2012年3月20日発行)に掲載のご自身の論文も資料として提示されながら問題提起された。「原子力発電については学習指導要領にも記載されているが、その扱い方は不十分である。文部科学省が作成した『原子力読本』は取りあげ方が一面的すぎる。実践を持ち寄り、研究を深めたい」「原爆は危険で怖いものだが、それを平和利用した原発は安全で、われわれの生活にとってなくてはならない喜ぶべきものだと、世界唯一の被爆国として、日本国民が思いこまされてきたととらえたい。そこから反原発教育は始まる」などの意見が出された。

野本 勇(麻布学園・技術科) isa05nomoto@snow.plala.or.jp
金子 政彦 (大船中学校) mmkaneko@yk.rim.or.jp